2016/01/13

フィンテック先進国、中国に見る現状と課題

中国が急成長する革新的なオンライン金融セクターの抑制に動いている。ここでは、いずれ他国も経験するであろうお金の扱い方を垣間見る機会が提供される一方、目を見張るような不正事件を数多く見ることもできる。

中国のインターネット企業は一般的なスマートフォン(スマホ)を、キャッシュレスでの取引や銀行振替、融資、投資を行うプラットフォームに変身させてきた。これらは米国で一般的に見られるレベルをはるかに超越している。中国ではクレジットカード決済を一気に飛び越し、マネー・マーケット・ファンドの購入やレストランでの割り勘、タクシーから持ち帰り用の料理に至るさまざまなサービスの決済を、全て同じスマホアプリで処理する人が多い。

昨年、中国の全人口の4分の1近くがオンライン決済を利用した。調査会社ユーロモニター・インターナショナルの推計によると、中国におけるモバイル決済総額は今年2130億ドル(約25兆6300億円)となり、米国の1635億ドルを上回る見通し。中国の決済サービス最大手は阿里巴巴集団(アリババグループ)の電子決済サービス会社である支付宝(アリペイ)で、ユーザー数は4億人に上る。

インターネット企業はスマホにオンライン専用の銀行口座を開くようユーザーに促し、自撮りの写真で本人確認を行う。米金融大手モルガン・スタンレーによると、オンラインネットワークを通じて資金の貸し手と借り手を結びつける「ピアツーピア(P2P)融資」では、中国における今年の融資額が332億ドルに迫っており、米国を43%上回るばかりか、向こう2年で金額が3倍になる可能性すらあるという。

現在、中国当局は基準となる規制の策定に乗り出している。当局は28日、決済プラットフォームの利用範囲を定めたガイドライン(指針)を発表したほか、P2P融資業界を規制する暫定措置を提示した。爆発的に成長するP2P融資業界では不正疑惑もあふれている。

また、規制当局は物理的な店舗や現金自動預け払い機(ATM)を通す必要なしに、フルサービスのオンライン銀行口座を開設させる顔認識システムなどの技術を認可するのに抵抗してきた。

中国人民銀行(中央銀行)は25日、同国にはバイオメトリクス認証技術の基準がなく、金融セクターでそれを利用する際の国および業界の基準もないと指摘。「このため、預金者の身元を確認する主要な手段としてバイオメトリクス技術が利用される環境にはまだ達していない」と述べた。

デロイト中国で金融サービス業界の担当責任者を務めるティム・パジェット氏は、「ご存じの通り中国では、モバイルとインターネットのプラットフォーム上で初めて起きていることが多い」とし、近く中国の消費者がスマホで自動車や保険を購入するようになるかもしれないと付け加えた。インターネット金融がどのくらい広範囲に利用されているかについては「中国は世界の他の国よりはるか先を行っている」と述べた。

中国ではモバイル決済が日常生活の一部となってきた。動画ではWSJ記者が現金を持たずに深セン市で一日を過ごし、どのようにしてデジタルで支払いを済ませられるかを紹介する

インターネット金融は中国経済の各部に入り込もうとしている。学生から農民、トラック運転手に至るまで、中国では多くの人が国有銀行システムの与信利用を長く拒絶してきた。港町の天津市で長距離トラックを運転するシ・ジャンツさんは2年前、輸送運賃の低下と顧客の支払い滞納で苦境に陥った。シさんは「基本的にトラックを維持することもできない状況に追い込まれた」とした上で、「銀行は私たちのような一般人に融資してくれなかった」と当時を振り返った。

P2P融資プラットフォームを通じ、オンラインでトラック業者への融資サービスを行う開元金融は、修理とメンテナンス、ガソリン代としてシさんに月当たり3万元(約56万円)を融資した。同氏は「徐々に支払いができるようになり、最終的に苦境を乗り越えた」と語る。シさんの家族は今年、この追加収入を利用して小さなトラック販売事業を立ち上げた。

中国でインターネット金融が爆発的に増加した主な理由は、既存の銀行が投資商品など資産を増やす手段へのアクセスを多くの個人に提供してこなかったためだ。銀行は主に国有企業への融資にほぼ専念してきたが、これは暗黙的であれ明示的であれ、返済に対する政府の後ろ盾が付いているからだ。

規制当局は、こうした金融サービスが国内消費と起業を促進させるという政府目標を後押しする可能性を見抜き、現在まで様子見姿勢を保ってきた。インターネット金融会社と取引実績のある投資助言会社、華興資本(チャイナ・ルネサンス)の包凡・会長兼最高経営責任者(CEO)は、中国が「大きなグレーゾーン」に当たると指摘。「非常に創造的になれる。やりたいことは何でもできる」と話した。

騰訊控股(テンセントホールディングス)やアリババの関連会社、螞蟻金融服務集団(アント・ファイナンシャル・サービシズ・グループ)などインターネット大手は、次の手段としてネット専業銀行の開設に取りかかっている。

浙江省杭州市で事業を営むフ・ユーさん(24)は、「伝統的な銀行は貯蓄だけに使う」と話した。同氏はテンセント系のネット銀行を利用してマネー・マーケット・ファンドに4万元を投資した。ファンドの利回りは年8%で、銀行の預金金利をはるかに上回る。

インターネット大手はスマホ搭載カメラで顔を認識するソフトウエアを通じ、顧客に新たな口座を開設させることを提案している。こうした技術により、利用者は遠隔地から通常の銀行口座を開設できるほか、銀行も預金を受け入れることができる。

銀行規制当局はこれを認可していないが、業界関係者らは関連企業との交渉が続いていると話した。

P2P融資業界では毎月、複数のプラットフォームが閉鎖される。運営業者が投資家の資金を持ち逃げするからだ。広東省の当局は9月にあるP2P詐欺事件を解決したが、ここでは広東省、上海市など11省市に住む90人以上が合計1000万元以上をだまし取られていた。当局者によると、3人の容疑者が逮捕された。

オンライン決済に関する人民銀行の新規制では、利用者の本人確認を強化し、口座移管できる金額に上限を設けることを企業に義務付けている。

これが最初に公表された時、伝統的な銀行の欠点を補うために決済プラットフォームが生み出した利便性を、規制の多くが損なってしまうという批判が噴出した。

こうしたサービスに対する暫定的な規制案には、投資家保護を狙った動きとして、P2Pプラットフォームが利用者の資金を管理・保管する「カストディアン」の役割を実在する銀行に委託する必要があると記されている。ただ、業界関係者や専門家らは、大部分がオンライン決済プラットフォームを通じて処理されるインターネット融資サービスについて、大半の銀行で準備が整っていないと話す。規制案は28日に公表され、パブリックコメント(意見公募)に出された。

関係者からは、当局による規制の押しつけは既存銀行が追いつくための時間稼ぎにすぎないという見方も出ている。

情報源:WSJ

0 件のコメント:

コメントを投稿