2017/05/28

中国の「フィンテック」が日本のはるか先を行くのは当然だった

金融革新は新興国から始まったと野口悠紀雄は指摘した。

新興国や開発途上国で、電子マネーが急速に普及している。タクシーや街中の商店の決済が、スマートフォンで簡単にできてしまうというという報道をよく見かける。こうしたものを見ていると、日本がだいぶ遅れていると感じる。

そのことは、日本銀行の調査でも裏付けられる。日銀が今年2月に発表した資料『BIS決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴』によれば、日本人の現金の利用率(GDPに対する現金流通残高の比率)は、19.4%であり、他国に比べて突出して高い。キャッシュレスが最も進んだスウエーデンでは1.7%でしかないのと比べると、11倍にもなる。

なぜこうなっているのだろうか? 1つの理由は、「カード決済のウエイトが大きいほど、支払手段として持ち歩く現金は少なくなる」という関係が存在することだ。日本では、カード決済のウエイトが低いのである。

しかし、それだけではない。南アフリカなどでも現金の利用率が低いが、これは電子マネーが普及しているからだ。この面でも、日本は遅れている。

東南アジアにおいても、スマートフォンを使う決済サービスの広がりで、大きな変革が生じようとしている。2021年の東南アジアでのスマートフォン決済額は3兆円強に達し、13年に比べ10倍に膨らむとの予測もある。銀行口座やクレジットカードでは遅れていた新興国が一気にキャッシュレス社会に前進するのだ。

このままでは、20年のオリンピックで外国から日本に来た観光客が、日本の決済環境に不満を抱く。こうした危機感を持った政府は、「『日本再興戦略』改訂2014」に、キャッシュレス社会の推進を盛り込んだ。しかし、状況は目立っては変化していない。

新興国や開発途上国で用いられている電子マネーの仕組みは、銀行を中心とする日本の決済制度より、ずっと優れている。

この現象は、「リープフロッグ」(蛙跳び)と呼ばれるものだ。これは、技術革新によって、新しい技術を取り入れた体制が、発展段階上のある段階を飛び越えて進歩してしまうことを指す。その結果、「後なるもの先になるべし」という現象が起きるのだ。

リープフロッグの例として、中国における電話が挙げられる。中国の産業化は通信インフラの主流が携帯電話の時代になって始まったため、固定電話の時代を飛び越えて、いきなり携帯電話が普及した。

金融や決済システムについて言えば、現在の日本の金融システムは、第2次大戦中に整備された。これは、銀行中心の間接金融の仕組みである。それが戦後に生き残って、高度成長に大きな役割を果たしたのである。

この金融システムの特性は、「ブランチ・バンキング」だ。つまり、銀行が全国津々浦々に支店を設置し、国民から預金を吸収するという仕組みである。

日本は、このブランチ・バンキングのシステムを開発途上国に対しても輸出しようとした。しかし、今起きている状況は、開発途上国がブランチ・バンキングの段階を飛び越えて、その先の電子マネーの時代に突入していることを示している。

世界銀行の統計によると、銀行口座の保有比率は、インドネシアやフィリピンで3割程度だ。クレジットカードは、シンガポールとマレーシアを除くと、東南アジアで数%どまりだ。従来型の金融サービスの普及が遅れていたために、かえって新しいサービスが急速に広がることになったのだ。

その半面で、日本は古いシステムにとらわれて身動きができなくなっている。そして、霞ヶ関や大手町の企業や人々は、いまだにその古いシステムの世界で生き、活動しているのだ。

中国でも電子マネーが急速に普及している。中国における電子マネー取引額は約150兆円と言われ、約5兆円の日本と比べると、30倍以上も差がある。

2大サービスは、阿里巴巴(アリババ)集団の「支付宝(アリペイ)」と騰訊控股(テンセント)の「微信支付」だ。これらは、プリペイド型の電子マネーだ。中国モバイル決済の約8割を占めている。アリペイは、アジア、ヨーロッパ、そしてアメリカにも急速に進出している。

中国が「一帯一路構想」によって、東南アジアからヨーロッパに至る広大な地域において経済的覇権を握ろうとしていることは、しばしば報道される。これはインフラ投資などを政策手段とするものであり、政府が主導する側面が大きい。

ただし、それだけではなく、金融インフラの面においても、中国が世界的な規模で指導権を握ろうとしているのだ。そして、これは、民間企業によるものだ。

日本では、「中国経済は急成長しているが、その実態は先進国経済の物まねであり、国有企業等の巨大企業や政府の役割が大きい」というイメージを持っている人が多いだろう。

そうした側面があることは、否定できない。しかし、他方において、政府の統制の及ばない自由な経済活動が急速に広がっているのも、事実なのである。フィンテックなどのIT部門は、その典型だ。

情報源:現代ビジネス

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