2017/07/21

中国が超速で「IT先進国」に変貌している理由

2017年7月、無人店舗「タオカフェ」が中国メディアの話題をさらった。

タオカフェは中国の電子商取引(EC)最大手、アリババグループの手になるもの。大きめのコンビニ程度の店内にはコーヒーなど飲料品の注文コーナーがあるほか、雑貨や土産物などの売り場が併設されている。アリババグループのノベルティグッズや、後述するタオバオ・メイカーフェスティバル出店企業が制作した記念品が販売されている。

アリババのECサイト「タオバオ」のスマートフォンアプリでQRコードを読み込んでから入店。あとは商品を選んで店から出るだけで買い物が終了してしまう。店員がいないだけではなく、財布を取り出したりスマートフォンで決済したりする必要すらない。

飲料品の注文は音声認識で行われ、客がレジに話しかけると自動的に注文が認識される仕組みだと紹介されていたが、筆者が訪問した時点ではレジに店員が立っており、客ではなく店員が音声で注文していた。構想では単なる音声入力ではなく、声紋を解析して注文者が誰かを認識し、注文と同時に決済も行われる仕組みだという。

技術面の詳細については非公開だが、筆者の観察したかぎりでは顔認証と非接触型の無線タグ(RFIDタグ)を使っているようだ。入店時にカメラで顔認証を行い顧客を特定。退店時にはRFIDタグによって購入商品をカウントし、顔認証によって特定した顧客の電子決済口座から代金を引き落とすという仕組みになっている。

同店はあくまでコンセプト店であり、7月8日から12日に中国の杭州で開催された淘宝造物節(タオバオ・メイカーフェスティバル)期間限定の公開だ。商品1点1点にRFIDタグが付けられているためそれなりのコストがかかっているはずだが、タグの回収などは行われていない。

採算度外視のコンセプト店だからこそできる手法ではある。現時点ではアリババグループが正式サービスとして展開する計画はないが、強烈な未来感を与える無人店舗は大きな注目を集め、公開初日にはタオカフェに約1万人もの入場客が押し寄せ、長蛇の列を成していた。

ここ半年ぐらいだろうか、中国IT企業から極めて独創的かつ先進的なビジネスが登場している。2016年の本格導入から猛烈な勢いで普及が進むモバイクなどのシェア自転車や、アリペイ、ウィーチャットペイなどのスマホ決済がその代表格だ。

かつての中国といえば、先進国の下請けとしての「世界の工場」や、高速鉄道に象徴されるように、外資の技術からノウハウを吸収したうえで国産化に挑むというイメージが強かったが、IT分野では今や米国に次ぐイノベーションの発信地という地位を確立しつつある。

この変化の背景には何があるのだろうか。現在、中国企業の時価総額1位はEC最大手のアリババグループ、2位がスマホ向けメッセンジャーサービスを擁するテンセントだ。銀行や国有企業ではなく、民間のIT企業こそが中国経済をリードする存在となっている。

この2社に検索最大手のバイドゥ、EC大手のJDドットコム、スマホ製造大手のシャオミなどを加えたITジャイアンツは、AIとビッグデータに象徴される新技術の時代で覇権を勝ち取るべく、積極的な投資を続けている。

2016年、アリババが企業買収・出資に費やした額は約4600億円。テンセントはそれを上回る約5000億円を投じている。革新的なサービスを生み出せば大手企業による買収という出口が見えるだけに、ベンチャーの先鋭的なサービスが続々と登場。中国IT業界にはイノベーションと変革を追求する動きが広がっている。

熱を伝えているのは投資マネーだけではない。新たなパラダイムが破壊的なものになると声高に叫び続ける「語り部」的存在が、アリババグループの創業者ジャック・マー(馬雲)氏だ。経営の第一線からは身を引いた同氏は現在、年100回以上もの講演をこなしているが、最近はというとパラダイムシフトを強調する発言が続いている。

アリババグループは7月12日、同じ杭州で第10回天下網商大会(グローバルネットショップカンファレンス)を開催した。マー氏は「Made in Internet」とのタイトルで講演した。

天下網商大会は2004年から2012年にかけてアリババが毎年開催していたイベントで、中国ECの未来を指し示す羅針盤として注目されていた。ECに対する認知が十分高まったとして休止されていたが、大変革の時代を迎えた今こそIT企業家やネットショップ・オーナーにメッセージを送る必要があるとして再開を決意したという。

マー氏は言う。現在、PCからモバイルインターネットへという大波が押し寄せているが、技術革新は加速しており次の大波も迫ってきている、と。ECを基盤に発展してきたアリババだが、今後はもはやECは消滅しすべての小売りがインターネットと結合する「新リテール」の時代が到来すると予言している。
スマホアプリでしか決済できない

「新リテール」とは何か。そのシンボルと目されているのがアリババが出資したベンチャー企業、盒馬(フーマー)が展開する生鮮食料品店「盒馬鮮生」だ。

現在、上海市を中心に中国で12店舗を展開している。一見すると普通のスーパーだが、店舗型倉庫としての役割を果たしており、スマホアプリで注文すると5キロメートル圏内には30分以内で配送する。支払いは基本的にスマホアプリでしかできない。匿名性の高い現金ではなく、詳細な購入者情報が得られるモバイルペイメントに特化することで、より細やかなデータを入手することが可能となる。

アリババグループは2015年に家電量販店チェーン「蘇寧雲商」に出資。今年初めには百貨店グループ・銀泰商業を買収したほか、スーパーやコンビニを展開する百聯集団と戦略的提携を交わした。今後はこれらオフライン小売企業の「新リテール」対応を急ぎ、オンラインとオフラインの融合を図る方針だ。

またマー氏によると、「新リテール」は第一歩にすぎず、新製造業、新金融、新技術、新エネルギーを加えた「5つの新」のすべての分野に取り組みを広げていくという。アリババグループ各企業の重役が参加する「5つの新執行委員会」の立ち上げも発表されている。

ビッグデータやAI(人工知能)、あるいはインダストリー4.0など、技術革新による新時代の到来を示す言葉は日本メディアでもたびたび取り上げられている。しかしながらこうした技術が今日明日にも日本を変えるという実感はない。中国でも新技術がどのような世界を作るのか具体的な姿が見えているわけではないが、まもなく何かが起きるという予感だけは強烈に漂っている。

タオバオ・メイカーフェスティバルでの取材中、会場外にいたとき、一群の老人たちに声をかけられた。普通話(標準中国語)も怪しげなローカル色むき出しの人々だったが、「あの無人店舗はどこにあるのかね?」と場所を聞かれたのだった。「未来へ向かう熱はこうしたお年寄りにまで届いているのか」と中国の空気感を強く感じる一場面となった。

情報源:東洋経済