2017/11/01

野放し「中国人白タク」で見えた、日本の遅れ

今年に入っていくつかのメディアが中国人観光客を乗せた「白タク」問題を散発的に報じていることをご存知だろうか。

成田や関空など国内の主要空港、大都市圏を中心に人知れず中国人の運転する「白タク」が増殖している。一般の日本人には見えにくい話だからだ。だが、この問題の背景に、日本のシェアリングエコノミーやモバイル決済の普及の遅れがあると言われればどうだろう。

まずここでいう中国「白タク」について簡単に説明しよう。今日、日本を訪れる多くの中国客は自国で普及した配車アプリを使って、日本在住の中国人の運転する自家用車をタクシー代わりに利用している。一見ライドシェアが実現しているともいえるが、これは「越境EC」ならぬ、「越境白タク」とでも呼ぶべきものである。日本では個人間のライドシェアは基本的に認められていないからだ。営業許可をはじめ日本国内の法やルールはあっさり無視されているのだ。

一般に配車アプリサービスは、スマートフォンで走行中のタクシーを検索し、指定場所まで配車するものだ。中国では数年前から日本に先んじて身近なサービスとして都市部を中心に定着している。ちなみに中国では個人間のライドシェアも条件付きで合法だ。

同サービスを提供する中国企業は自国の海外旅行者の増加を当て込み、自らのプラットフォームを使って国外に事業を拡大し始めた。それが可能となったのも、中国のシェアリングエコノミーが独自の発展を遂げ、世界中で利用可能な決済アプリのWeChat Pay(微信支付)、Alipay(支付宝)によるモバイル決済が普及したからだ。そして、これが何より肝心なのだが、サービスの担い手である中国人が世界中に存在し、ドライバーをしていることだ。日本以外の国々でも見られる現象である。

主な国際空港周辺で彼らの姿をよく見かける理由に、市内への移動手段のコスト高がある。団体から個人に移行している中国客は家族や小グループが多い。荷物も多く、1台のタクシーでは乗り切れないため、ワゴン車が好まれる。

中国客はたいてい自国で予約決済をすませているので、日本でドライバーに支払いをする必要はない。土地勘のない海外でもボラれたり、騙されることもない。ドライバーは中国の配車アプリ企業に登録されており、素性が知れているからだ。なんとよくできた仕組みだろうか。そのため、この違法サービスは、皮肉なことに、中国客をまだ外国客の少ない地方の観光地に運ぶ貴重な足にもなっているのだ。

実は、日本を訪れた中国の友人が予約した「白タク」に同乗したことがある。ドライバーは日本在住の中国人なので、普通に日本語を話すし、友人も中国人同士、気軽に会話を楽しんでいる。営業許可のない自家用ワゴン車だが、中国客はそれが違法と知るよしもなく、「日本のタクシー代は高すぎる。配車アプリほど便利でお得なサービスはない」と話す。

最近の中国人には「自分たちは当たり前のようにこのサービスを利用しているが、日本は遅れている」との思いがある。一方、事情を知らない日本人からみると、ドライバーも客も中国人同士であり、白タク営業とは気づかないだろう。これが摘発の難しい理由である。

この問題の解決を考えるとき、漠然とした中国への反発をベースに議論を煽るのは賢いやり方とはいえない。なぜなら、シェアリングエコノミーの社会における実践面において、日本は明らかに中国に遅れを取っているからだ。日本の社会は中国に比べて多くの面で優れているのは確かだが、この方面についてはうまくいっているとは言い難く、それを認める必要がある。

それをふまえれば、遅れている側が法やルールを通じて現場を仕切り、自国の利益を守ろうとするのは普通のことといえる。だからといって、中国が平気でよくやるように、特定のプラットフォームを遮断することはできない以上、彼らを営業車として登録させ、管理する方向に呼び込むか、ツーリスト相手に限りグレーゾーンの存在としてこのまま泳がせるのか。違法営業であるという前提がある限り、今後、日本の社会が中国「白タク」の横行になんらかの制限を加えようとするのは当然だろう。

やみくもに摘発を強化するというようなやり方には実効性が乏しく、実りもない。日本人がまだ手に入れていない、海外旅行先で自国民のドライバーによる配車サービスを手軽に利用するという利便性を知ってしまった中国客に対して、どう制限を加えるかという問題は、それなりに理論武装したうえで合理的な説明が必要だろう。

彼らの違法営業をやめさせるためには、「白タク」の代替サービスを提供することも考えなければならない。個人化した中国客の移動のニーズを捕捉することは簡単ではないが、それゆえに「白タク」の横行を許してしまったといえるのだから。

そもそも日本社会としてライドシェアをどう実現していくかについての青写真を描いたうえでこれらを着手しなければ、みっともない話といえるのではないか。

そのためには、IT、金融、交通行政、法の専門家や警察、タクシー業界などのステークホルダーに加え、中国の事情に詳しい人間の知恵の結集が欠かせない。中国の先進性に学ぶ姿勢も必要だからだ。なぜ中国はこれほど進んだサービスを実現できたかについて公平な理解や今後の見通しが問われるだろう。

それぞれの専門家の立場からこの問題がどう見え、どうすれば解決につながるのか。日本社会の実情に無理なく合わせて、どこまで許容し、何を禁じるかを決める必要があるだろう。これを機に日本独自のライドシェアを育てるための新しいルールづくりを始めてもいいはずだ。

情報源:Forbes中村