2017/11/23

中国勢の東南アジア進出を意識したシンガポールのモバイル決済

シンガポールでは、11月の5日間に渡り「FIntech Festival」が開催され多くの出店企業がユニークなフィンテック技術を披露した。期間中にシンガポールのモバイル決済ツールである「Paynow」と同じくタイの「PromptPay」の提携が発表され、国境を超えた相互モバイル送金決済の実現が発表された。

シンガポールの「Paynow」というのは主にシンガポール第2位の銀行OCBC銀行を中心に多くの銀行が参加しているモバイル決済ツールであり現在のユーザーは50万人である。追加のアプリを使用しなくても銀行独自のプログラムを活用して携帯電話番号や住民IDを登録するだけでモバイル送金が可能となる。Facebookや東南アジアで最も普及しているSNSアプリWhatsAppを活用し送金可能となることを売りとしている。

一方、タイの「PromptPay」は2016年7月にタイ政府が主導するデジタルエコノミー施策(National e-Paymet PROJECT)の一環としてスタートした決済ツールで、同様に携帯電話と国民IDで登録ができる。既にタイでは人口の3分の1がユーザーとなっているタイでは非常に知名度のあるモバイル決済ツールである。シンガポールとタイでメジャーなモバイル決済ツールが、国を超えて連携の動きを見せたことは「Alipay」や「WeChatPay」の東南アジア進出に対抗する防衛手段と見ていいだろう。

東南アジアの総人口6億3000万人のうちで、銀行口座を保有するのは1/3に当たるわずか2億1000万人にすぎない。2/3の東南アジアの人々が未だに銀行サービスを享受したことがないというわけである。

このあたりがスマホでのモバイル決済を得意とする中国勢から見るとブルーオシャンに見えるのではないだろうか。この数字はかつての中国と非常に類似しており、中国の過去3年で発生したモバイル決済の急速普及現象が、今後東南アジアでも繰り返される可能性が高いと感じさせる数字である。

EuroMinitor 社の予測では、東南アジアのモバイル決済市場は2021年には320億USD(日本円で3兆5000億円)規模となると試算している。2013年の統計値から10倍に拡大することを意味するものである。

シンガポールでもアリペイ進出は加速しており、昨年から「Alipay+」が導入され、チャンギ空港や、デパート、レストランなどで主に中国人観光客向けにアリペイが活用できる。さらに今年4月には東南アジア最大のEコマースプラットホームであるLazada株式の83%をアリババが取得し、Lazadaが有する「hello pay」を「Alipay」に改名した。現在では、Lazadaで買い物する際の決済手段としてアリペイが使用可能となっている。こうした中国モバイル決済勢の怒涛の勢いの東南アジア進出に、最も強い危機感を募らせているのが金融先進国シンガポールである。

シンガポールは、金融先進国だという自負がある。ここ数年でのし上がって来た歴史の浅いアリペイやWeChatPayなどの中国フィンテック勢に負けるわけにはいかない。中国勢の決済を活用することで自国民の決済データが中国に流れることに対しても危機感も相当強い。

今年7月からシンガポール最大の政府系銀行であるDBS銀行は、QRコード決済の「Pay Lah」サービスを開始した。スマホでのQRコード決済、送金などを可能にするアプリである。その他にも、OCBC銀行などの複数の銀行が連携して作ったPaynowなども登場し、中国勢のアリペイ、WeChatPayに対抗して独自の決済ツールを導入している。

DBS銀行のように、アジアで最も安全な銀行で1位を長い間継続しているような銀行は、自ら決済ツールを改革しなくても安泰だとも思える。中国勢を意識して無理やり導入した感のあるQRコード決済は、現段階ではシンガポールのホーカーズ(屋台)などで使用しようとしても、店員に面倒な顔をされることもある。

しかし、DBS銀行はフィンテック分野で怒涛の攻勢を仕掛ける中国勢に対抗して、自分たちが変わらなければ数年後に生き残れないことに気がついている。

中国勢が、モバイル決済で東南アジアを制圧する前に自らが設計したモバイル決済で東南アジアを制圧できれば、それが最大の防衛策となるのである。

以上のように、今年に入りシンガポールが急速にモバイル決済の導入を加速している。一昔前では、考えられなかったような高度なフィンテックの戦いがシンガポールを舞台に始まろうとしている。

情報源:Glo Tech Trends